みんなの党の成長戦略

<サマリー>

 日本経済には、再び力強い成長を遂げる潜在力がある。みんなの党が、いま政策を提言する上でまず強調しておきたいのはこの点です。
菅首相は増税しても使い方を間違えなければ景気は良くなると言っています。古今東西増税をして景気が回復した事例はありません。国民がお金を使うよりも政府が使う方が賢明だと言っており、菅内閣の官尊民卑の思想をはからずも表したものです。
長引く経済の低迷と新興国の台頭、そして政治の混乱によって日本人はすっかり自信を失ってしまいました。ですから力強い成長と言ってもにわかには信じ難い人がほとんどでしょう。
しかし経済成長にターゲットを絞りいくつかの政策を集中的に実行すれば、日本が4%以上の成長を遂げることは決して非現実的なことではありません。マニフェスト選挙の定着で公約やアイデアが乱発されるなか、みんなの党が喫緊の課題として国民のみなさんに約束することは日本経済の復活です。これは改革と成長戦略の必要性を一度もブレることなく訴えて続けてきた政党だからこそできる提言です。 もっとも日本の現実は、一つの政策を実行さえすればすぐにも回復するというほど楽観できる状況ではありません。昨年末に民主党政権が発表した成長戦略のように、マクロ環境改善のための仕掛けも示さないまま根拠のない需要創造の数値をあげてみても結果は明らかです。もちろんバラマキというカンフル剤など、一過性のごまかしにすぎません。
では、どうすべきなのでしょうか。みんなの党の描くロードマップは4%以上の成長実現までを大きく三段階に分け、いくつもの政策を組み合わせていくというやり方です。
日本経済を成長軌道に乗せる第一歩は、まず良好なマクロ経済環境の確保です。そのためにはいち早いデフレからの脱却が不可欠です。日銀と協調して金融政策を大転換し、約40兆円と言われるデフレギャップ解消に乗り出します。これが短期的な第一段階です。
さらに中期的な目標として成長著しいアジア地域の需要開拓です。今後アジアでは10年間で8兆ドルのインフラ投資が予測されています。日本はこのうち4分の1の獲得を目標とし、同時にアジアの金融センターとしての東京市場を復活させます。 これに加え長期的には日本の産業を支える科学技術の復活が重要です。潜在成長力は生産性を高めないと引き上げられないし、生産性の向上には科学技術のブレークスルーが必須です。
みんなの党はケネディ大統領が10年以内に人を月に送ると言ったのと同じ様な夢のある科学技術開発の目標を掲げます。10年以内に植物が行う光合成を人工的に出来るようにして地球温暖化の問題とエネルギー問題を解決します。同時に、iPS細胞の研究を進め10年以内に自分の細胞から遺伝子情報の全く同一な臓器を造り、移植治療が可能になるようにするという目標も掲げます。
みんなの党は国内においては徹底した規制改革、海外では自国民や自国企業の後押しをする政府を作ります。成長戦略においては明確な目標を設定して取り組むのがみんなの党です。

1.成長戦略の考え方

 足元の経済はどうなるのか?景気はどうなるのか?5年後、10年後はどうなるのか?現在、多くの国民が不安に感じている。みんなの党は、短期、中期、長期に果実を得る政策の組み合わせを通じて年率4%以上成長の達成を目指す。もとより、日本経済はたった一つのことを実現すれば成長軌道に乗るほど状況は良くない。いくつもの政策を組み合わせることで何とか年率4%成長を目指すのが、みんなの党の戦略である。そのために、良好なマクロ経済環境が不可欠であり、まずデフレの脱却が必要である。短期的には、日銀と協力しながら金融政策に力を入れデフレ脱却を目指す。
中期的にはアジアの成長と我が国の成長を重ね合わせる政策に力を入れる。特に今後10年間で8兆ドルのインフラ投資の4分の1の獲得を目指すと共にアジアの金融センターとして東京市場を再生させる。 長期的には科学技術投資の結果で生産性の向上を目指す。日本の国際収支の黒字だけが、資源の乏しい日本を支える要であり、国際収支の半分は日本の製造業のもたらす貿易黒字だということは国民の知るところである。この製造業を守り更に発展させ、同時に、新しい産業分野の競争力を高めて技術やサービスを輸出する力をつけることが重要である。
民主党政権の成長戦略では、「環境」「健康」「観光」などの分野で10年間に100兆円超の需要創造を掲げているが、マクロ環境改善のための仕掛けが何ら盛り込まれていない。これでは、空疎な数値を掲げるだけに過ぎず、成長はできない。
みんなの党は、まず、政府と日銀が一体となって、強力に財政金融一体政策を推し進めていく。
経済の成長は、バラマキというカンフル注射でもたらされるのではない。企業人や地域の現場の人々のチャレンジ精神と活力によってこそもたらされる。その意味で、成長戦略の根幹は、官僚統制経済(霞が関による民間統制)と中央集権体制(霞が関による地方統制)からの脱却、すなわち、「脱官僚」と「地域主権」である。もはや、霞が関ないし国が司令塔となって、官僚主導でミクロの産業政策(業界対策)を行い、企業活動を導いていくという時代ではない。現在の菅政権は大きな政府を目指す方向である。行き過ぎた金融市場保護政策が、コンプライアンスや短期的視野に基づく規制を強めて、日本企業の長期的投資や雇用を破壊し、菅内閣の出す公開会社法は、企業の活力を奪い、日本の民間企業の政府に対する依存心を高める方向にある。
民主党政権は、発足前は「脱官僚」と「地域主権」を掲げていたが、その後、天下り全面容認への転換、財務省主導の予算編成プロセスなど、既に馬脚を現しつつある。今回の成長戦略を見ても、「脱官僚」と「地域主権」という視点は全く欠落しており、国による企業活動の誘導を基軸とした旧来型の成長戦略と言わざるを得ない。
みんなの党は、また、「脱官僚」と「地域主権」を基軸とした新たな成長戦略の推進を行う。ミクロの産業政策(業界対策)ではなく、業種横断的な政策を中心とする。とりわけ、今後、人口減少社会において成長を実現するためには、「科学技術の振興」が最も重要である。「ムダ削減」という名目の下に科学技術振興を軽視していたのでは、経済の成長は決して見込めない。 このほか、競争政策、規制緩和、知的所有権などの法制度の整備や、教育の強化などによる成長基盤の整備を行う。個別産業を育成する場合であっても、地域主権の観点から、できる限り国の組織ではなくより実態経済に近い地方で行う。日本の品質、サービス、モノが画一的と考えているのは東京中心の発想である。実際、様々な地域や企業において違った考え方を持ち、国内市場でも競争しながら切磋琢磨して成長してきた。地域地域で特区を作り、日本全体が多様な制度により運用される方が、様々な成長機会を生み出す。
地域クラスターの推進も必要である。クラスターとして完結させないと、政治的な県境で自治体同士が足を引っ張りあっても地域主権はできない。クラスターによりテーマごとに、複数自治体のネットワーク化が必要になる。また、そのクラスターが何を特徴としているのか、世界にも知らせることで、海外との取引も直接始めることができる。
同時に、我が国が抱える最大の課題は人口減少である。みんなの党としては、人口減少を必ずしも所与のものとはせずに、出産・育児に関わる諸手当の支給や待機児童問題の解決に加えて、ワークシェアリングの法的整備、24時間ゼロ歳児保育の充実、貧困化が顕著な母子家庭・父子家庭への公的支援、婚外子への社会的認知促進などを通じて長期的に出生率の増加を目指す。短中期においては、高度人材(経営者、技術者、研究者、金融ほか知的専門職)のアジア・世界からの積極誘致に加え、中度人材(介護など特定スキル保有者)の組織的受け入れも推進する。

2.デフレギャップ解消のための財政金融一体政策

 デフレからの脱却が、成長のための大前提である。デフレギャップ解消のため財政金融一体政策を講ずる。当面40兆円のデフレギャップを解消するためには、財政政策とセットで、金融政策を講じ通貨供給量を拡大する必要がある。
白川日銀総裁が0%以上の物価上昇を目指すと発言したことは前進であるが、現状において、日本銀行の金融政策は、デフレからの脱却を具体的に目指したものに見えない。少なくともこ れまでの物価水準のデータを検証すると、事実上、0%からマイナス1%のデフレ目標をとってきたと考えられる。また、昨年12月、供給規模10兆円の資金供給手段(新型オペ)を導入することを打ち出したが、期間3か月の資金であり、到底十分な対応とはいえない。米国(FRB:連邦準備理事会)も欧州(ECB:欧州中央銀行)も、積極的な金融政策を打ち出している中で、日本だけがデフレから脱却できず、成長も見込めない状況に陥りつつある。
こうした状況を放置していたのでは、いくら政府が財政政策を講じても、日本経済を成長軌道に乗せることはできない。米国のFRBやECBと比較すると日銀のバランスシートは国債偏重であり、企業のCPや社債などの保有が極端に少ない。また、対GDP比での資産の大きさ自体においては、米国や欧州と差異がないように見えるが、我が国はクレジットカードよりも現金をより多く使用する社会であることを考慮に入れると日銀のバランスシートをもう少し大きくしても合理的であると考えられる。
欧米諸国においても、膨張したバランスシートから如何に脱却するかの議論が行われていることも念頭におきつつ、例えば以下のような措置を検討する。・政府と日銀との間で政策目標を共有する枠組みを作り(日銀法改正)、物価安定目標を設定する。共有した目標達成のための具体的措置及び実施時期については、日銀が独立して定める。
・政府から日銀に対し、例えば、20兆円の中小企業向けローン債権に政府保証を付与した上で、金融機関から日銀が買い取ることを要請できるようにする。これにより、地域金融機関のローン債権がキャッシュに変わることで、貸出余力が高まり、有効需要創出の効果が期待できる。
・あわせて、地域の信金・信組などが、中小企業等の議決権のない株式を保有することを促進し、地域密着型金融を強化する。リスクウェイトをローン並みにする。
・そうした政策を通じて、我が国経済に欠けるリスクマネーの供給を増やす環境を整備する。
・中小企業の銀行からの長期借入金のDES(デット・エクイティー・スワップ)も検討。

3.中期的、長期的な視点での新たな成長戦略

(1)「脱官僚」と「地域主権」による成長

日本経済を官僚統制と中央集権のくびきから解き放ち、成長の可能性を拡大する。

○官僚統制と中央集権の道具であった規制制度を徹底的に見直す。
・「規制改革会議」の後継機関を設けて、総理や関係大臣出席の下に開催する。国レベルの最低基準の必要性を精査し、真に必要性が認められた場合を除き、すべての規制制度を廃止または地方移管する。
・ノーアクションレター制度の適用範囲拡大や利用促進を進め、官僚のさじ加減による裁量行政を徹底的に排除する。

○具体的には、例えば、
・地域密着型(地場)産業(医療・介護、福祉、子育て、家事支援、教育、農業など)は、時代に合わない規制などにより、本来の成長可能性が阻害されており、規制改革による産業創出が期待できる。
・特に農業は、農地制度の抜本改革などにより、補助金で生き永らえる衰退産業から、輸出を伴う成長産業への転換を図る(後述)。FTA(自由貿易協定)などで市場が自由化した場合も、農業ベンチャーの育成や大規模農業化への促進など、強い農業を実現する。
・航空分野では、オープンスカイの推進、羽田空港国際化(内外分離の撤廃など)により、アジア共同市場の時代に対応する。また、地方分権の具体策として、空(空港)と海(港湾)の一体的運用を実現するため、ポートオーソリティを設ける(後述)。特に港のライナー化を促進して、日本の国際物流コストの低減を目指す(韓国、上海を学ぶべき)。港と空港は、点の議論をしてもだめで、ロジステックスネットワークとして考えるべきである。
・医薬品のインターネット販売は、利用者のニーズをふまえ安全性に配慮しつつ解禁する。
○規制改革を進める前提として、
・政治主導体制の実現(「国家戦略局」「内閣人事局」「内閣予算局」により政策・ヒト・カネを官邸で掌握など)
・「地域主権型道州制」の導入などを進める。
○「脱官僚」と「地域主権」を進め、「バラマキ」もしない。
・官僚の裁量によるスペンディング(財政支出)から減税へ、政策体系を転換。
・高速道路料金については、人気取りにすぎない「高速道路無料化」や「1,000円乗り放題」ではなく、持続可能な、かつ環境にも配慮した、メリハリのある料金体系(混雑区間・時は高く、その他区間・時は安く、など)を構築。天下り利権のための高価格になっているETCは民間開放して低価格化。また、一般道路でもロードプライシングを検討。

(2)「30億人のアジア市場」を取り込む

成長しつつある「30億人のアジア市場」を「国内市場」「内需」として取り込むことは、少なくとも当面は人口減少の続く日本経済の成長にとって不可欠である。アジアを「国内市場」として取り込む上では、民間企業の自助努力だけでなく、国(政府)の果たすべき役割が大きい。

○アジアのインフラ投資の取り込み
今後10年間で電力・水道・鉄道・港湾等で8兆ドルのインフラ投資が見込まれるアジアのインフラ投資の担い手として我が国の運営ノウハウを活かし、その投資額の最低4分の1を我が国に還元することを目指す。特に電力、水道、鉄道のサービスの品質において世界一であるとの認識のもと、こうした分野で単なる機器の売り切りという形態ではなくオペレーションとして進出することを目指す。我が国の電力事業はコンマ何秒以下の停電もない、全国どこの水道水も安心して飲むことが出来る、遅延が殆どない電鉄事業という意味でどの事業も品質は世界一であるといえる。こうしたサービスの品質を武器にオペレーターとしての海外進出を後押しすべしと考える。進出のネックは、我が国において薄いリスクキャピタルと進出を担う人材であるが、リスクキャピタルについては排出権取引の活用によりリスクキャピタルの厚みを増やす仕組みの導入を図り、人材についてはアジア諸国からの留学生の起用も考えられる。
同時に、現状の日本水準の品質が新興国では過剰品質(結果として過剰コスト)の場合、コスト削減の観点から過剰品質面を見直すことも視野に入れる。その為、
・政府のトップセールスによる強い交渉支援
・プロジェクト開発初期段階のフィージビリティスタディ・初期設計に入り込むための専門コンサル機能の強化と積極的導出
・独禁法の市場寡占の評価基準を国際市場での市場占有率とする政策を通じて機器メーカーの集約が可能となり、(海外メーカーを含めた)再編を通じたコスト競争力の向上。
・オペレーター+機器メーカーをセットで海外進出させる省庁横断的取り組み。オペレーターのグローバル化においては、海外での運営経験の欠如を補い、コスト競争力向上のために海外O&M(Operations & Maintenance)事業者の買収を含めた大胆な策が必要。
・ファイナンススキームの高度化などに取り組む。
発電に関しては、世界の今後の追加設備需要は石炭・ガスが最大。日本には、重要な技術資源として高効率火力発電(超々臨界発電、石炭ガス化複合発電など)がある。再生可能エネルギーの利用促進に加えて、これらの技術開発および国際展開の支援が重要。加えて、「グリーン・グロース」の構成要素としては、原子力やCCS(二酸化炭素回収・貯留)の技術も大変重要。

○アジアワイドの規制改革を推進。
現状での重大な障壁は、各国の規制制度がばらばらで、国境を越えた市場展開を妨げていることである。このため、外交・通商交渉を通じて「アジアワイドの規制改革」を推進する。特に国内の農業問題に対処して、自由にFTAについて議論できるようにすべきであり、その次に地域内の広域提携が可能だと考える。アジア域内の無用な規制を撤廃し、必要な規制制度についてはアジア域内での共同制度構築を図る
・競争政策、知的所有権などの法制度の国際調和、域内紛争解決制度の構築など
・アジア各国に残る外資規制、不合理・過重な規制制度の撤廃など

○特に、医薬品の治験・承認制度については、我が国の制度・運用にそもそも問題があるほか(時間がかかり過ぎるなど)、国によってバラバラになっていることも医療活動上の大きな障害。早急に、国内の制度・運用を改善すると同時に、アジアワイドの承認基準や治験制度の確立を目指す。

○アジアの物流環境・域内インフラを改善。
現状では、アジア各国は、それぞれ欧米への輸出を目的とした大規模港湾などの整備は進む一方で、アジア域内の物流環境は脆弱。アジア域内を共通市場とするためには、域内輸送のための道路・鉄道網の整備、通関システムの構築など、物流分野を中心としたインフラ整備が緊要である。
このため、
・「サムライボンド」(「円建て債」)の活用による域内インフラ、物流等の整備。
・「サムライローン」(円借款)によるインフラ整備。その際、日本企業のアジア展開を促進するため、ローンはタイド化。
・「サムライエクイティ」(資本提供)の活用。排出権をリターンを求めない資本として投入する仕組みの確立。同時に日本の温暖化対策として貢献できるようにする。

○一方、国内においても、アジア共同市場の時代に対応するため、航空分野でオープンスカイの推進、羽田空港ハブ化(内外分離の撤廃など)を進める。
○こうした措置を通じ、これまで内需型産業とされていた流通(コンビニ、専門店)、物流(宅配便)、教育(学習塾)、福祉(高齢者介護、老人ホーム)、農業等の海外進出・輸出を強力に支援。
○同時に、医療(高度医療・高級健康診断)、大学、観光などでアジアから顧客を誘致し、少子化のハンディキャップを克服。介護のための外国人受け入れは急務だが、試験や条件が厳しすぎて実際は介護の職につけない。また、介護は特養が大きく不足している問題をきちんと捉えるべきで、介護者の処遇向上も必要。
・最高水準の医師を海外からも集めて治療にあたらせる特区を設け、アジアの医療拠点にするなど。
○アジアの通貨防衛、為替安定を図るため、アジア版通貨基金構想を推進。
○円の国際化(円建て輸出の促進)。
○さらに、アジアのみならず、米国・豪州等を含むアジア太平洋地域内で、経済、エネルギー、環境、安全保障各分野での協力を促進。経済分野では、米国等とのFTA交渉も推進。その際、農業を聖域とせず、減反廃止と関税撤廃を基本とし、輸出する農業への転換を図る(後述)。

(3)「科学技術の振興」

○前年比較での予算配分方式から目標設定方式へ
従来の研究開発は、官僚が予算配分を行い、研究者は単年度ごとに予算当局への報告などに追われ、肝心の成果がいつまでたっても出ないことになりがちだった。そもそも、官僚が見込みある研究開発プロジェクトを見極められるという前提が間違っており、その後の成果の評価・管理も十分できていなかった。
10年以内に光合成を人工的に出来るようにして温暖化問題を解消するとか10年以内に自分の細胞から自己と同じ遺伝子情報を持つ臓器による移植医療が出来るようにするといった夢のある大方針を政治が国民との契約のもとに掲げ、その開発実現に向けて責任の所在をはっきりさせた形で予算を配分する方式に変換させる。
そうしたことの実現を通じて、これからの科学技術振興では、「官僚統制」から脱却することが重要。例えば、寄付税制を拡充して「全額税額控除」の導入などを行い、国民が、政府を通じてではなく直接、研究機関に寄付することを促進。研究開発減税の拡充など。(スペンディングから寄付・減税へ)

○研究機関の強化
もとより、国は基礎科学振興費用の資金の最大の出し手であり、基礎科学研究費用は増加させるが、そうした予算配分に依存した研究機関から、自律的に資金を集め、厳しい競争の中で成果を競う研究機関に脱皮させることで研究成果を増やしていく。具体的には東大民営化などを象徴事例とする。民営化することで、市場のニーズにあった大学を作るのが重要と考える。例えば、今後ソフト開発分野の人材が足りない状況でも、電子工学科の定員は増やせないし、教官も非常勤以外兼業が禁止されている。これでは、実務家が大学教育を行えない。大学は、最高のサービス産業であるという認識が必要だ。

○日本文化産業
メディアコンテンツ、ファッション、食、観光などの領域は、新たな輸出産業として大きなポテンシャルを有する。ただし現状では、担い手である企業の殆どに世界市場を積極的に攻めるマインド、経営スキル、企業体力が欠如。また、関連する諸産業に横串を通し、日本の文化価値を総合的に訴求・展開する国家戦略も欠如。これらを大きな産業群に育てるためには、・カテゴリー横断的な、日本文化産業全体のブランドコンセプトの創出(例:英国の”Cool Britannia”戦略、韓国の”Cool Korea”戦略)

・カテゴリー×エリア軸での重点が明確で、かつ統合的な戦略の策定
・重点地域市場における現地支援プラットホームの設立(市場調査、現地パートナーの紹介・交渉、共同流通網の構築などシェアードサービス的機能を提供)
・関連産業の再編と強いブランドポートフォリオの形成(例:多数の高級ブランドを束ねる持株会社LVMH)、これを可能とするファンド機能とマネジメントチームの組成などが必要。

○科学技術の振興
基礎研究の振興はもちろん重要だが、開発した技術を世界市場で金にするためには「規格競争」に国としてしっかり取り組むことが重要(例:通信、スマートグリッド、電気自動車、地デジなど、重要産業の多くに該当)。WTO以降の国際標準化の波の中で、ISO(国際標準化機構)・IEC(国際電気標準会議)などで影響力を持ち得ず、関連産業の機会損失が大きいのが現状。

(4)業種横断的な産業育成策(科学技術以外)

- ① 規制改革(再掲)
○国内における規制制度の原則、廃止または地方移管。
・医薬品のインターネット販売は利用者のニーズをふまえ安全性に配慮しつつ解禁。
○アジアワイドの規制改革。
・競争政策や知的所有権制度の国際調和
・アジアワイドの医薬品の治験・承認制度の確立など

- ② 質の高い労働力を確保する
新たな技術や知恵を生みだし、活力ある企業活動がなされるためには、産業を支える人材の質が重要。教育の抜本強化や、働き手の拡大のための施策を講ずる。

<教育の抜本強化>
○教育の最終的な責務は国にあるという認識のもと教育を抜本強化する。具体的には、教育基本法に沿って、教師の資質を高め、教育力の向上を図り、学習時間の確保と学力の向上を目指す。世界に通用するたくましい日本人を育てる。
○「ゆとり」が「放縦」とならないよう基礎教育・公教育を充実させる。
・義務教育段階での読み書き計算の徹底と道徳教育の教科化
・少人数・体験・個性重視。理系離れへの対応。手に職を持つ教育、生き抜く教育等を重視。
・自国や他国の歴史や文化を正しく学び、愛国心や郷土愛を学校教育の中で育む
・教員の質と数を充実。
・教員の政治活動を全面禁止
・親の貧富で教育格差が広がらない環境整備。高校、専門学校、大学等の高等教育へ奨学金制度の拡充(出世払い・返済不要型の活用等)。
○学校を地域社会に開放する。公立中学、高校の水準を向上させる。また、何でも学校がるという考え方から家庭の役割、地域の役割も考えることも必要。
○大学を競争にさらし、研究機能とともに、教育サービス機能抜本強化。
・東大の民営化など(再掲)。産業と大学の関係を更に密接にする必要がある。産業のサービス機関としての大学の位置づけも重要。
○優秀な研究者や学生が国境を越えて能力を高め活躍する機会を拡大
最先端のイノベーションを実現するには、国内にこもらず、世界の優秀な人材との交流・切磋琢磨が必須。現状の日本の問題は、①国内の大学が魅力に乏しく外国の研究者・学生を集められない、②一方で、日本人学生は内向き志向が強まり海外留学者数は減少。
・アジア域内での大学単位の相互認定、(従来の量的目標設定を超えた)留学生拡大施策の推進など。

<女性の社会参画を促進>
○子育てしながら働ける環境づくり(待機児童ゼロ、保育ママ・病児・一時保育の拡充、育児休暇取得の円滑化、職場の意識改革等)。待機児童の問題は、保育所での子ども一人当たりの面積等の国の一律基準から、各自治体の裁量へ移行。規制を緩めたり、保育所で働く者への優遇などを自治体で工夫する。そして、住みよい街づくりを自治体が競争する。
○幼保一元化の推進。
○3歳児以上の保育・幼児教育を、一定の所得制限の下に無償化。

<専門技術を有する外国人労働者>
○専門技術を有する外国人労働者の受け入れを拡大。

<格差を固定しない「頑張れば報われる」雇用・失業対策>
○賃上げより雇用確保を重視。派遣規制の必要以上の強化には反対。長期安定雇用がないと技術スキルなどが蓄積されない。
○同一労働同一待遇(賃金等)を徹底。正規・非正規社員間の流動性を確保すべく、労働市場を整備。
○原則として全ての労働者(公務員及び非正規を含む)に雇用保険を適用。
○雇用保険と生活保護の隙間を埋める新たなセーフティーネットを構築。雇用保険が切れた長期失業者、非正規労働者等を対象に職業訓練を実施。その間の生活支援手当の給付、医療保険の負担軽減策、住宅確保支援を実施。

- ③ 産業に金を流す
○1,500兆円の個人金融資産を活用(贈与税の軽減、寄附税制の拡充等)。
○租税特別措置(5兆円)を抜本的に見直すとともに、法人税を20%台に減税(赤字企業の損失繰越期間の延長、繰戻還付の拡充を含む)
○「全額税額控除」の導入等寄付税制の拡充等により、地域のNPO活動等を活性化。
○地銀等による地域中小企業への資本提供の拡大。
○中国はじめアジアからの対日投資を歓迎。

- ④ 社会保障貯蓄制度の創出
○15年後には医療・介護・年金の社会保障費用は現在の倍となることが見込まれている。現状の保険料、税金、窓口負担という財源では社会保障自体の持続可能性が問われることが想定される。そこで、任意貯蓄口座の社会保障貯蓄口座を新たに創設し、この口座の資金については相続税減免の恩典を与える代わりに、本来保険が適用される分野の内の一部をこの口座を持てる方の場合にはこちらからの支払いをしてもらう。もちろん、差額ベッド代等の支払いにも充当できるようにする。いずれにせよ、社会保障全体を賄う財源を新たに創設する。
○高いレセプト処理費用や間接費用などの社会保障費用のコスト低減も行うべきであり、徹底した社会保障費のグランドデザインを行って、まず、本当に必要な社会保障費用の算定を行うべきである。北欧政府と違い、日本の集められた社会保障費用は、何に使われてどのようになっているか分からず、日本の社会保障制度には、全く透明性が無い。

(5)個別分野の施策

個別分野の施策については、今後、「地域主権型道州制」への移行に伴い、道州を中心とした実施体制に移行する。
従来の規制制度や国の施策が成長の障壁となってきた分野では、早急に見直しを行う。
「環境」と「農業」の分野では、こうした見直しの必要があるほか、エネルギー・食糧安全保障との関係上、引き続き、国の責任で施策を講ずる必要がある。

- ① グリーン・グロース(「緑の成長」=環境制約による成長)の実現
○国際社会に表明した「25%削減」をてこに、経済成長を実現。
米国はもちろん、中国・インド等の新興国、発展途上国も参加した実効的な排出削減メカニズムを構築。
○風力、太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギーの利用促進
・政府保証付き売電収入担保リースの導入で全戸に新エネ発電装備など
○成長戦略の根幹である鉄・非鉄金属及び化石燃料等の資源は、国内都市鉱山の開発をすると同時に、開発から社会基盤構築までの一貫したODAを軸に海外資源国との絆を太くすることで確保。
○排出権取引市場の創設、新たな技術の開発推進
○人工光合成の国家プロジェクト推進
○エコカー減税は電気自動車に絞って集中支援し、新たな分野での市場獲得へ
○水ビジネス(和製水メジャー)の育成
(大都市水道局を民営化。日本企業の高い技術を生かして、和製水メジャーを育成)
○都市鉱山開発:携帯リサイクルのアジア展開(アジアワイドでの貴金属リサイクルシステムの確立)など

- ② 「国内に閉じこもる農業」から「アジアを市場とする農業」への転換
○「食糧自給率40%」は、国内の農業にとって大きな可能性が残されていることを意味する。
日本市場は縮小するが世界市場は拡大。とりわけ、アジア市場は、ごく一部の富裕層が高級品を消費するフェーズから、大量の中流層が膨大な消費をする市場に移行していること(中国の年間所得3,000ドル以上の人口は、2009年に日本の総人口を上回る)を考えれば、農業生産の大幅拡大は可能。
GDP比5%産業を目指し、また、コメはアジアを市場とした輸出産業への転換を図る。新たな成長産業としての農業に、雇用を吸収する。
○米の減反政策(生産調整)を段階的に廃止するとともに、農地転用規制(「ゾーニング」=土地利用規制の導入等)を徹底、耕作放棄地の有効活用を図る仕組みを確立。
○それにともなう米価低落の激変緩和のために、農業を継続する意欲のある者に直接支払う制度を創設。(民主党の戸別所得補償は、農業を成長産業に変える政策をともなわず、ただ延命のためのバラマキを行うだけ。強い農業を作ることとセットの直接支払いにすべき。)
○米価下げによる需要(国内・輸出)拡大と、規模拡大等により農家の収益性を向上。
○株式会社による農地取得、農協改革等で新規参入を促進。「マーケット型農業」を育成(成功事例の集積、パターン化と応用等)。農業ベンチャー、大規模農業の育成。日本の80%以上の農家は、1a未満のただの地主であり、これらの土地を整理して1ha以上の農業を展開して黒字の産業にする。
○農産物を聖域としないFTA交渉の積極展開。
○流通サービス(コンビニ、スーパー)や物流サービス(宅配、保冷技術)のアジア連携とも連携して、日本産品の輸出拡大。
○農業
高付加価値の果菜類や鮮魚など一部を除くと、生産・流通コスト差が大き過ぎて現状の延長線上では国際競争力は持ち得ない。米についても同様。農家個別所得補償は、コストをかけてでも国内農業の維持と食糧自給率向上を図る目的には合致するが、「農業の成長産業化」には力不足。輸出産業化には抜本的なコスト競争力向上が必須であり、そのためには、
○大規模農地利用
○植物工場化による多毛作・多期作
○農商工連携によるサプライチェーンの大規模化・効率化(安定的な販売先の確保、野菜のカット工場などとの組み合わせ)をセットで推進することが必要。工業技術を装備した「近代的農業システム」であれば、システムごと輸出することも可能となる。

- ③ IT化の推進
○医薬品のインターネット販売は、利用者のニーズをふまえ安全性に配慮しつつ解禁する。学校教育にITやインターネットを取り入れる。eラーニングや電子教科書を使う。また、電子カルテや政府申請、納税申告などすべて100%電子申請を原則とし、行政改革・コスト削減につなげる。また、地域間の格差をなくすため、情報の民主化を進める。
○データ通信インフラを日本全土で整備する。
○医薬品販売規制のほか、食品表示の過度な規制の動きなど、ITビジネスを阻害する過度
な規制を排除する。

- ④ 「国内に閉じこもる金融」から「アジアを市場とする金融」への転換
○金融業は単独で産業として成り立つものではなく、産業と金融は、経済成長のための両輪である。その際、金融業は、国や国民にもたれかからず自立して成長していかねばならず、アジア地域の経済成長を取り込む必要がある。
そのためには、金融業を支える人材教育等が重要である。一方、英国がいわゆる英国病から脱却した背景にはロンドンを世界の金融センターに育てあげたことからも、我が国の成長戦略の上でアジアの金融センターに東京を持ってくることを考えることも重要である。東京には、香港、上海、シンガポール等の他の都市と比較しても、報道の自由の保障されるマスコミの存在など幾多の利点がある。一方、金融センターになるにあたっての障害に対応していくことも重要。特に、税制(詳細 要議論)優遇、会社、証券発行体の英語のみによる情
報開示の容認等を含む金融商品取引法の適用除外を行う。東京を真にアジアの金融ハブに育成するためには、「グローバル金融人材が東京で活躍できる場・環境作り」という発想が必要。
その中で揉まれた日本人の一部が、グローバルで活躍できる金融人材に育てば良い。金融行政の適正化が必要。他産業と比べても担当官庁の存在感は圧倒的に高く、「ベターレギュレーション」といいつつ、金融機関は新しいことに踏み出すのに金融庁の顔色を見ながらやらざるを得ない状況にある。外資系金融機関からは、「海外で当たり前の商品ですら日本では認められない」という声が未だに聞こえる。加えて、アジアの成長領域(インフラ、環境、都市開発など)、および国内の成長領域(環境、医療・介護など)に長期資金を誘導する仕組み(これからの産業金融のあり方)についても検討が必要。
○リスクに見合ったプレミアムという市場金利の体系を作る。
○ゆうちょ銀行、かんぽ生命の完全民営化により資金を官から民に取り戻す。
○アジアのインフラ投資等の資金需要にこたえるべく、国際協力銀行等の公的金融機関を民営化しガバナンスを高めた上で、そのノウハウなどを活用する。
○金融グローバル人材を育成するプログラムを実施。(投資家としての個人育成、グローバルに通用する金融専門家の育成)それにより日本を産業+金融立国へ

- ⑤ 沖縄のメディカルツーリズム特区
沖縄振興策の一つとして、沖縄に医療特区を創設し、特区内においては認定国の医師免許を保有する医師の医療行為を可能にすると共に、認定国で認可された薬についても、安全性に配慮したうえで使用出来るようにする。沖縄県民については特区の中での医療行為については、保険適用とする。