「TPP反対論」vs「TPP反対論」への反論

1、総論

「TPP反対論」
「TPP反対論」への反論
(1)そもそもTPPは「アメリカの陰謀」だ。
TPP参加国に日本を加えた10か国のGDPのうち、アメリカ67%、日本24%。他の8か国では不満なアメリカが日本を狙っている。
・アメリカの対外輸出額(2010年)に占める日本の割合はわずか5%。一方、TPP8か国(合計)は、GDPでは日本より小さいが、輸出額では日本より大きく、対外輸出額の7%。
将来の市場としても、高い経済成長を続けるアジア諸国の方が、よほど魅力的なはず。 ・現に、アメリカは日本に参加を求めてきていない。
(2)日本政府には交渉力・外交力がない。きっとアメリカの言いなりに、一方的にやられる。 だからといって、交渉から逃避していたら、ますます交渉能力が低くなる。そんな国は、国際競争で生き残れない。
(3)TPPにはメリットがない。日本にとってのターゲットは、中国などのアジア市場。アメリカの関税は低いので、貿易拡大余地は小さい。
むしろ、日中韓FTAなどを進めた方がよい。
<対アメリカ>
・韓国は、米韓FTAで、例えば自動車の関税段階的撤廃(乗用車2.5%、トラック25%)を確保。日本に立地する企業は、米国市場で明らかに不利に。 <対その他のTPP参加国>
・FTA締結済みの国でも、高関税は残っている。
例えば、
ベトナム: 乗用車83%、二輪車90%
マレーシア: テレビ13.6%、中型自動車22.7% <対中国>
・日本がTPP参加に動けば、中国は「日中」を含むFTA交渉に真剣に臨まざるをえない(中国から見ても日本市場は重要)。
(現に、日本でのTPP論議が本格化してから、中国は、日中韓FTAに向けた共同研究の報告とりまとめを「1年前倒し、今年12月までとする」ことを日韓に提案。) <全般>
・TPPは、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏、APEC加盟21か国・地域)の実現に向けた道筋の一つ。
昨年のAPEC首脳宣言(横浜)では、FTAAPへの道筋として、TPP、ASEAN+3(日中韓)、ASEAN+6(日中韓豪NZ印)の3つが示されたが、このうち、現在具体的に動いているのはTPPだけ。
(4)どうせ円高だから、輸出は増えない。  円高は、金融政策の失敗が原因(日本だけ金融緩和してこなかった)。正しい金融政策の実行とセットで、TPP参加すればよい。
「正しい金融政策は実行できないので、TPPにも参加しない」というのは、最悪の選択。
(5)TPPに参加すると、安い農産品が入ってきて、デフレが進行する。  経済学的に間違い。貿易依存度が高いとデフレになるということはない(輸入が増えれば円安になる)。
そもそも、デフレの要因は、金融政策の失敗。
(6)情報が足りないので、拙速に参加すべきでない。 情報を集め終わったときは手遅れ。
これまで、日本がさまざまな国際ルールづくりで出遅れ、不利益を被ったのは、そうした対応を続けてきたから。
(7)いったん交渉に入れば、抜けられなくなる。  国際交渉では、最終的に協定に署名するのか、政府が署名した協定を議会が批准するのか、いったん協定参加したのちに修正交渉を要求するのかなど、各段階で判断の余地が当然認められる。
これは言わずもがな(「協定に署名しない可能性含みで交渉に入る」などと敢えて言う必要もない)。
(8)TPPでは、一切の例外が認められない。 ・従来のTPP(4か国)でも例外品目は存在。
また、段階的撤廃も可能で、10年超の長期的自由化も認められている(例:チリの乳製品)。 ・アメリカも、対豪州で砂糖の関税は維持したいとの立場。

2、農業

「TPP反対論」
「TPP反対論」への反論
(1)日本の農業が壊滅する。
・農産物の生産減少額:4.1兆円
・GDP減少額:7.9兆円
・雇用減少数:350万人
・いま農業改革をしなければ、どのみち日本農業は自滅。 ・自由化が壊滅につながらないことは、過去に立証済み。
例えば、アメリカンチェリーの輸入自由化の際(昭和52年から自由化、平成4年に全面自由化)、「国産サクランボが壊滅する」という反対論があったが、現実には、国産サクランボは「高級品への転換」で差別化し、生産額は大幅拡大。 (注)国産サクランボの生産額は、昭和52年から平成17年で約1.5倍に大幅増加。(農林水産省資料「過去に行われた輸入自由化等の影響評価」(平成19年)に基づき、生産量×卸売価格で概算すると、昭和52年:194億円→平成17年:317億円) ・農水省試算は、全世界を相手に関税を即時撤廃し、何も対策を講じないという非現実的な前提。
「こけおどしで何の意味もない」(高木勇樹・元農水事務次官)。(出典:日経ビジネス2011.11.7)
(→コメの試算については下欄で別途)
(2)コメ農家が壊滅する。
<農水省試算(上記の内訳)>
・「国産米247円/kg」に対して「外国産米57円/kg」なので、一部ブランド米を除いて壊滅。
→生産量の90%(700万トン)減少。
・農水省試算の「外国産米57円/kg」は、中国産米が安かった頃の価格で、現在は3倍程度。内外価格差はずっと縮まっている。
2010年度では、60kgあたり、国産12,687円、中国産9,780円(山下一仁・キャノングローバル戦略研究所研究主幹)。(出典:同研究所「TPP研究会報告書」) ・「米国産米のうちジャポニカ米は30万トン程度に過ぎない」(本間正義・東大教授)。700万トンのジャポニカ米輸入は非現実的。 ・関税は即時撤廃ではない。長期の段階的引き下げとして、その間に農業改革を進めればよい。
(2’)コメ農家を所得補償で守ろうとすれば、巨額な負担になる。
<鈴木宣弘・東大教授>
・60kg当たりの生産費14,000円と輸入米価格3,000円の差額を補填する場合、
(14,000円-3,000円)/60kg×900万トン=1.65兆円
・国産米と外国産米の価格差は縮んでいる(同上)。 ・コメ農家の平均で見れば、所得438.9万円のうち、農業収入が8%(年34.6万円)。一方、民間の平均所得は405.9万円。(出典:日経ビジネス2011.11.7) ・一定規模以上などに限定したメリハリある所得補償にすれば、ずっと少なくて済む。
今でも15ha以上の農家のコストは60kg当たり6,000円(山下一仁氏)。(出典:前記「TPP研究会報告書」)
山下氏試算では「2500億円の追加財政負担で十分」。(出典:日経ビジネス2011.11.7)
(3)食料自給率が40%から14%に低下する(農水省試算)。食料安全保障が脅かされる。 ・「カロリーベースの自給率」は、そもそもコメ自由化阻止のための虚構の数値。「生産額ベースの自給率」では70%を超えている。 ・「食料さえ自給すれば・・」という議論も怪しい(穀物だけ自給しても、エネルギーが途絶すれば、輸送も加工も不能)。
(4)すでに日本の農産品の関税は十分低い。
農産品の平均関税率は、日本は11.7%。米国(5.5%)よりは高いが、EU(19.5%)よりも低い。
(出典:農林中金研究所「TPPに関するQ&A」2011.2)
・左記は、1996年時点のデータを意図的に使っている。
当時はコメの輸入が原則禁止で関税が存在しなかったので(現在は778%)、平均値の計算に入っていない。
直近の比較をすると、
日本21.0%、EU13.5%、中国15.6%、
WTO試算による120か国・地域の平均15.3%
(出典:読売新聞・円山淳一/読売クオータリー2011春)

 

3、その他

「TPP反対論」
「TPP反対論」への反論
(1)食の安全
 アメリカは、日本の食品安全基準を国際基準まで引き下げる狙い。農薬や添加物まみれの食品の輸入が増え、遺伝子組み換え食品の表示義務が緩められる。 ・アメリカには強力な消費者団体が存在し、食品安全基準は、国内的に極めてセンシティブな問題。
「国際基準に」と安易に主張できる立場にないし、もしそう主張してきたら、アメリカの国内世論も巻き込んで交渉したらよい。
(注)ウルグアイラウンドでSPS協定を妥結する際、消費者団体の懸念に配慮したアメリカ政府の提案で、「国際ハーモより高い水準の安全基準」を認める条項を修正追加した経過もある。 ・遺伝子組み換え食品については、たしかにアメリカは「安全と認めた食品なら表示義務は不要」との立場だが、他方、豪・NZはこうした表示制度に反対の立場。(出典:前記「TPP研究会報告書」)
(2)投資
 「ISD条項」という危険な条項を入れようとしている。米国企業が日本政府を訴えられるようになり、経済主権が侵害される。
NAFTAでは「ISD条項」のために、カナダ政府・メキシコ政府が大変な目にあった。
・「投資家対国家」の紛争手続規定は、何ら新しい話でなく、1960年代以降、二国間投資協定に標準的に規定されていたもの。
日本でも、1978年の日エジプト投資協定以降、25の投資協定を結んでいるが、ほぼ全て(日フィリピンEPAを除き全て)、「投資家対国家」規定を入れている。
(出典:経産省「不公正貿易報告書2011」) ・特に途上国に進出する日本企業にとっては、有益な規定になりうる。 ・NAFTAで、カナダ政府、メキシコ政府に対する巨額賠償が認められたケースがあったのはそのとおりだが(カナダ:386万米ドル、メキシコ:1669万米ドル)、アメリカ政府にも同程度の提訴がなされており、まだ継続中の案件が相当数存在。
(出典:外務省「投資仲裁の事例」2011.10.25)
(3)医療
 アメリカは、「混合診療」の全面解禁や、株式会社の医療参入を求めてきて、国民皆保険制度が崩壊する。 ・これまで協議の対象になっていない。 ・ただし、「混合診療」の解禁、株式会社の参入容認、また医薬品分野での「ドラッグラグ」の解消など、他国から求められるまでもなく、推進すべきこと。
(4)外国人労働者
 単純労働者が大量に入ってくる。  TPPでは、「ビジネスマンの入国・滞在ルール」については議論されているが、「単純労働者」の議論はない。
 労働基準が途上国並みに緩和される。 「労働」分野では、安い製品を作るため労働基準を緩和することの禁止が議論されている。
 専門資格(弁護士など)の相互認証がなされ、外国から大量に入ってくる。  TPPではこれまで議論されていない模様。
(5)郵政・保険
 アメリカは、郵政、簡保、農協共済に狙いを定め、一般の金融機関並みの扱いを求めてくる。 ・USTR外国貿易障壁報告書(2011)で、これらの問題に重点的な指摘がなされていることはそのとおり。 ・他国から求められるまでもなく、一般の金融機関とのイコールフッティングを確保すべき。